湯之岳観音尊お山掛け修行
別当 法海寺
湯之嶽十一面観世音菩薩は、大同元年(八〇六)僧徳一が東奥巡錫の折、湯ノ岳の麓を通り、層巒茂樹、渓谷の勝地霊峰なるを感じ、湯ノ岳の山頂に登る。
山頂から四方を回視すれば五雲靉靆として上矢を覆い、森林寥欝として誠に仏像堅固の霊地だと思召されて、南面八合目に位する所に観音堂を創建して、自作の十一面観音の尊像を安置し、国家安泰と五穀豊饒を祈った」という縁起による。
そもそも、各方面からの信仰を集める霊峰湯之嶽は、地域信仰としても大変盛んでありました。湯ノ岳は藤原川の源泉であり、その流域で生活を営む地区ごとに自然の恵みに報恩と感謝をささげ、ご本尊様にお供え物をし、祈願法要を修し法海寺より出発、〆帳場にて入水し身を清めお山掛け修行の始まりです。
近年霊峰湯之嶽のお山掛けは毎年八月斉行される。檀信徒の総代を初め篤信者が藤原町田場坂の法海寺の境内にある湯之嶽観音堂前庭に参集、先達をつとめる住職のご祈祷が終わると梵鐘の響きに送られながら、法螺貝を先頭に一行は表参道(行人道とも言う)である川上第一の木戸からお山掛けに入る。お山掛けは今で言う登山のようなものだが、単なる体力作りや、観光の登山ではなく、あくまでも宗教的な内容に満ちた祈りの登山、即ち観音尊と大自然への恵に感謝する精神修養の行である。
- 第一の木戸 〆帳場
- 第二の木戸 不動滝
- 第三の木戸 賽の河原
- 第四の木戸 御前滝
- 第五の木戸 毘沙門滝
- 第六の木戸 姥様
- 第七の木戸 箱石
- 第八の木戸 経塚
- 第九の木戸 お竜灯場
- 第十の木戸 観音堂跡地
上記の各木戸に於いてそれぞれ御幣を奉納し祈願法要をし、裏参道である後山を経て田場坂に下山し、法海寺にて無事帰山の参拝をし、修行満願を祝い「舟払い」祝宴をし解散す。
このお山掛け修行は三百有余年も受け継がれ、その伝統を今に残す。
三箱山 法海寺
第三十六世 住職 楠 淳雄 敬白